○インザプールを読む

bqsfgame2018-04-22

「家族の問題」が面白かったので、図書館で借りてきました。
精神科医・伊良部」シリーズと言う連作短編集です。
ちょっと捻ってあるのは、シリーズ共通人物である伊良部博士ではなく、そこを訪れる患者が各話の視点人物だと言うことです。神経症の人の視点で物語が記述されていくので、どこまでが事実で、どこからが妄想なのかが判然としません。
そういう意味ではミステリー的には成立しない作りでして、その代わりに神経症の人の感じる不安や焦燥感を迫真の筆致で毎回描き上げています。
第1話は表題作で、主人公はプール依存症です。健康のために泳ぎ始めたのは良いのですが、あまりに調子が良いので無理にでも時間を作ってどんどん泳ぐ距離を伸ばしていき、ついには生活がプールに支配されてしまうと言う。程度の軽い運動依存症は、多くの人が経験あるでしょう。運動すると快調なので、もっと運動したいと言うのは誰しも思うことです。
第2話は、陰茎強直症という奇病で、勃ちっぱなしになった男性の話し。これも程度が軽ければ羨ましいと思う人もいそうな話しですが、まったく収まらないとなると深刻。
第3話は、コンパニオンで初めて女性主人公です。コンパニオンをやっているが、タレントとして売れる自信はあるという主人公が乾坤一擲のオーディションに挑んで後輩を蹴散らして進んでいくお話しです。病気としては、自意識過剰なんでしょうね。
第4話は、ケータイ依存症の高校生の話しです。ケータイを使って発信し続けていることで自分の居場所を確保しているのに、ケータイが故障してしまったら‥。これなどは、実例がそこいらにいそうな話です。
第5話は、不安神経症。家を出た後に、ガスの元栓を閉めたか不安になって家に戻ってしまうという誰もが経験したことのある症状のエスカレート版です。
視点人物たちの悩みは、どれもかなり共感できるものばかりです。それを受け止めて、いきなりビタミン注射しては、治療らしい治療もせずに一緒に遊ぼうとする伊良部博士。その実態は、神経症は考え過ぎるのが一番よくないと言うことを自ら体現している深慮の成果なのか? というお話しです。
「家族の問題」もそうですが、気軽に読めて、これがなかなか痛い所を突いていて読みごたえがあったりします。
続編が直木賞受賞作なので、続けて読む予定です。