☆海を見る人を読む

昨年11月に58才で早逝した小林泰三(やすみ)です。

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SFマガジンで特集号が出たのですが、Jコレクションで出た時から気にしていたこちらを読むことにして入手しました。
前半3編までは、あまりピンと来ませんでした。
しかし、「キャッシュ」から一気に面白くなりました。
世代宇宙船に二人と言うシチュエーションは、「パッセンジャー」みたい。実は、冷凍睡眠中の仮想現実と、船内現実が互いに浸透している設定で「マトリックス」みたい。
「母と子と渦を旋る冒険」は、外部探査ユニットと母船を擬人化して母子として語る宇宙童話。グリム童話のような残酷なエンディングをどう評価するかで好みは別れることでしょう。個人的にはありかなと思いました。
「海を見る人」は、さすがの表題作。海と山では時間の進み方が異なっており、海の方が遅くて山の三日間は海では小一時間にしかならない。
海から訪ねてきた娘と恋に落ちた少年は、結局、結ばれることなく彼女は海に身を投げた。海面は事象の地平線なので彼女の時間はどんどん遅くなり、彼女の体は拡大して彼女の時間はどんどん静止に近づいていった。少年は老人になったが、今も海面いっぱいに広がっていく彼女を見ている‥というお話し。
「門」は、タイムパラドックスもの。テレポートを可能にした技術革新に関する解説が前半を占め、その門を巡る攻防で初恋の人がどうなったかを知ることになる。

最後の二作品は一種の時間テーマの青春物になっていて、広く高い評価を得られそう。前半はどちらかと言うと石原藤男系列の天体ハードSFで、ちゃんとした計算背景があり、読者もちょっと計算してみて欲しいという路線の作品。