山田正紀です。
いわゆる「神シリーズ」としては数えられていないことが多い作品ですが、テーマやテイスト的には同系列と言って良いと思います。
アフガニスタンを旅していて、母親に捨てられた男の子を拾ってしまい、母親を探そうとする主人公、森男。その男の子、淳一。
どうにかして日本へ辿り着き、日本での幻代史の中に合流します。
舞台は1970年代。田中内閣の列島改造論が荒れ狂い、狂乱物価、オイルショック、中東戦争など、筆者の世代が同時代で体験してきたイベントが次々に作品中で発生します。
本書の巨悪は、宗教団体による政治団体、聖宗連から当選した海藤です。宗教団体に推されて国会に送り込まれたはずが、逆に政治家として力を蓄えて宗教団体を支配するように。さらに、オイルショックに便乗して原発狂言事故を起こして電力危機を誘発させ、それを背景に治安出動、反対者の拉致監禁、警察でも自衛隊でもない私兵組織「護国別動隊」の形成へと進んでいきます。
それに対して淳一の姉、爽子が教祖を勤める「ひかりの道教団」は、海藤の支配を断固として拒否し、その結果、燃料油隠匿の冤罪を掛けられて大弾圧を受けます。
最後には教団は革命決起し、別動隊と全面衝突、海藤を倒すのですが、その衝突の凄惨さは想像を絶するものとなり、ハルマゲドンの様相を呈します。
「神々の埋葬」が神の力を持ってしまう側の物語でしたが、本書は世界を滅ぼす悪魔の力を持ってしまう両者が激突するハルマゲドンの物語です。これもまた神シリーズ作品と言って良いと思います。
圧倒的な破壊力ですが、「テスカトポリカ」と続けて読むと、いささか胃に靠れる感じはあるでしょうか。
山田正紀ファンなら必読と思いますが、楽しい読書かどうかは微妙な所です。