〇パラドックスメンを読む

 竹書房文庫です。
 オールディスが、最初に「ワイドスクリーンバロック」という術語を発明して絶賛したアメリカSF。

 大昔から翻訳が待たれていましたが、ついに実現したのが2019年。そこから既に5年も経ってようやく読みました。
p177
 十個の惑星をしたがえた太陽が、輝く三次元の映像となって眼前に飛びだした。ケルベロス-発見されたばかりの冥王星のかなたにある惑星-は一マイル近く離れており、かろうじて見えるだけだ。
p293
 ステーションは完全に太陽に埋没しているにちがいない。四周で放射熱が一様になっているのがその証拠だ。それでも、あいかわらず太陽黒点過流のなかにいる。はるかに低温の対流がステーションを洗っているのでそれがわかる。説明はひとつしかありえない。黒点過流は巨大なU字型のチューブを通って太陽表面へもどっているにちがいない。
p304
「おまえがわたしに信じさせたがっているのは、こういうことか-今夜だれかがT-22に乗って旅立ち、時間をさかのぼって、五年前にオハイオ川に墜落し、アラールとして岸へ泳ぎ着く」
 マインドはうなずいた。
p306
中略:もしアラールが超人類であるならば、その超常能力は潜在しているのだ-そのときわたしはそう判断した。彼は野生動物の群れに養われる子供のようなものだ、と。
 超人の生まれであることを無理にでも理解しないかぎり、彼は死ぬまで隠喩的な四つ足で走りまわる運命にあっただろう-

訳者あとがき
「この長編は、十億年の宴のクライマックスと見なしうるかもしれない。それは時間と空間を手玉に取り、気の狂ったスズメバチのようにブンブン飛びまわる。機知に富み、深遠であると同時に軽薄なこの小説は、模倣者の大群がとうてい模倣できないほど手ごわい代物であることを実証した。この長編のイギリス版に寄せた序文で、私はそれを『ワイドスクリーンバロック』と呼んだ。これと同じカテゴリーに属する小説にはEEスミス、AEヴァンヴォークト、そしておそらくはアルフレッド・ベスタ―の作品が挙げられよう」