○レッドオクトーバーを追えを読む

bqsfgame2008-06-03

1984年のトム・クランシーのデビュー長編。
一般受けするベストセラー作家と言うのはあまり守備範囲ではないのだが、ダグラス・ナイルズの同題のゲームをプレイするための資料として購入。ゲームの方は既に見切りを付けたのだが、小説の方は遅れて読み終えた。
率直な感想としては、少々硬くて読みにくい感じはあるものの、なかなか面白かった。
一番魅力的なのは、テクノロジー小説としての側面、潜水艦小説としての側面だろう。
ソリトンの悪魔」を読んだ時にも感じたのだが、海底を潜航する潜水艦という存在は独特のテイストを持っていると思う。日常世界から隔離されたところで隠密行動を取る存在ならではの奇異なポジション。戦国時代で言えば忍者のポジションに近いだろうか。関が原のボードゲームが正統派とすれば、ツクダが出していた「伊賀対甲賀」は実物を見たことがないのだが、タイトルだけ聞いても独特の雰囲気がある気がする。「宇宙戦艦ヤマト」のナスカ艦隊の前哨として登場した次元潜航艇なども同じようなテイストがある。主役ではなく、およそ正統派とか主流とか言うものからは正反対の位置にある。それだけに、その実態は人知れず、それを描いた作品には禁断の果実の魅力があるように思う。
本作では、ソビエトの最新鋭ミサイル原潜「レッドオクトーバー」の新型推進システムが前半の主役となる。これに挑むのが、NATOのソナーネットワークと、ソビエトの攻撃潜水艦である。このへんのテクノロジー描写は実に興味深く読める。
一旦、目的の潜水艦が発見されてしまうと、今度はその潜水艦を沈んだことにしつつ、回航して獲得するための大芝居が打たれることになる。ここらへんの大仕掛けのトリックはいかにも売れ線のベストセラーらしい。
そして、最後にもう事態が落着したかと思われたところで、もう一つ危機が訪れ、まさかの潜水艦対潜水艦の戦闘がフィナーレとなる。
クランシーを評する言葉として、テクノスリラーというのがあるようだが、ちょっと修整してテクノサスペンスというとぴったり来る気がする。主役はテクノロジー、テイストはドキドキという感じだろうか。なかなか面白かった。
一方で気になる点としては、人物の魅力が今一歩だと思った。登場人物が多過ぎるというのもあるかも知れないが、これと言って思いいれて読める人物が見当たらない。
これと関連するが、米ソ両大国の外交的な駆け引きの部分の描写は、テクノロジーの描写と比較して見劣りがするように思った。