○日本沈没を読む

bqsfgame2009-02-05

1973年にカッパノベルスから出版された、押しも押されもしない日本SFの金字塔の一つ。
当時、筆者は小学生だったかと思うのだが、書店に並ぶベストセラーの本書の日本列島が沈む表紙と、富士山が沈む表紙は鮮烈に記憶している。
その頃に一度、読んでいるのだが、結構、小学生には歯応えがあって、随分と背伸びした感じの読書だった記憶が残っている。今回、30年ぶりに読んで見て、意外に読みやすいこと、骨太でストレートな作品で、近年の「ハイドゥナン」との比較においては意外なほどに日本が沈むという単純なテーマだけに集中しているので余分なことが書いていない作品だと言う印象を受けた。
解説の森下氏は、本書は多様なものを含み全貌を把握するのは容易でないと言う。それもその通りなのだが、それでも骨太な「日本沈没」に徹して、多様なものを含むとは言え、それは全て日本が沈没することに直結して起こっていることであるのが本書のストレートさを生んでいると思う。それだけに非常に力強い。
裏を返して言えば、本書を読むと改めて「ハイドゥナン」のいろいろな要素に手を広げてしまったことの弱点というのが再認識できるように思う。沖縄伝奇物のテイストで始まり、地殻変動危機小説として展開し、そこに超能力要素から進化論的要素まで盛り込まれ、宇宙開発エピソードも関連付けられる。それは、当代のあらん限りのものを盛り込んだというゴージャスさを感じさせると同時に、読者の消化能力を越えてしまって読みきれなくしてしまっているようにも思う。読解力がない方がいけないのかも知れないが、万人に理解してもらって‥という構想でないことは否めないのではないかと思う。
それに対して、「日本沈没」は、万人に読める作品になっていて、実際にそのようにベストセラーになった。もちろん日本民族アイデンティティーが失われる危機というレベルになると、想像を越えた部分もあり、作者も第一部完という形で、日本列島という故郷を失った日本民族についての物語は別に据え置くしかないほどになったのではあるが。
その第二部が、ついに谷甲州というもう一人の骨太の作者を得て登場し、さらには文庫化された。それを読むための準備作業として第一部を読んだのだが、第一部だけでも圧倒的な重量感があり、正直に言って小休止というところだろうか。小松左京の畢生の大作であることを痛感し、やはり日本のSF史に残る傑作であると感じた。