☆時間帝国の崩壊を読む

bqsfgame2013-07-22

バリントン・ベイリー。ベイリーの長編としては初期に訳出されたもので、なんと久保書店さん。確かSF宝石のブックレビューで見て、これは是非入手しなければと思ったのだが、当時使っていた書店には入荷がなくそのままに。だいぶ経ってからオークションで入手した。
以来ずっと本棚に滞留していたのだが、最近の滞貨一掃月間で急浮上。
率直に言ってベイリーらしい奇抜な設定と、高いエンターテイメント性で、かなり面白い。ただ、設定は奇抜すぎて良く判らないところもある。ざっくり言えば、アシモフの「永遠の終り」に近い。タイムトラベルが可能な時代に、時間軸に沿って展開する時間帝国がある。これが、自分の存続のために時間線をメンテナンスしていると言う辺りは良く似ている。
ただし、此処から先が複雑。まず、対立する覇権大国なる存在が未来の時間線に存在していて、そこと戦争をしている。時間帝国と覇権大国の間の時代では、一度人類は絶滅の危機に瀕したらしく、両帝国の間には継続性がない。で、ややこしいのが時間帝国同士でどうやって戦争するかのテクノロジー。タイムトラベルをするために現在時間から時間流なる別次元へ侵入し、そこで接敵する。しかし、両帝国とも別次元で使える兵器を持っていないので、敵に停戦交戦を申し入れ、指定した時間に一旦出て瞬時に決着する高出力兵器で交戦する。勝った側は時間線を自分の所属する時間に戻ってくる訳である。
で、お馴染みのパラドックスだが、時間線を交戦域に向かって出撃する時に、勝利するであろう側は時間流の中で凱旋してくる未来の自分とすれ違うのである。逆に言えばすれ違わない場合には負けて帰ってこれない可能性が高いと言うことを意味する。うーん、奇妙な話しだ。
この戦争は延々と戦われてきたのだが、敵が安定した歴史を一気に歪曲させる新兵器を開発したらしいことから俄かに緊迫する。これに対して史上かつてない時間艦隊を建設、その出撃日が決まる。しかし、この大戦闘は結局の所、両者の存続を危うくするだけではないかと危惧される。
で、主人公は一艦長に過ぎないのだが、この命運を変えるべく努力する。艦隊の中に銀英伝の地球教徒みたいな狂信者のテロ集団がいて、それに嵌められて犯罪者にされたりして次々に大変なことになる。結末は読んでのお楽しみとしか言いようがないが、小説の展開としては冒険小説と言って良く非常に読みやすい。二つの時間線が衝突すると言う怪作「時間衝突」の直後の油の乗り切っていた頃の作品と聞くと、なるほどと思わされる。