蜃気楼マーケティング

bqsfgame2014-03-05

四天王マーケティングからの連想だが、蜃気楼マーケティングをご存知だろうか。
蜃気楼のように姿は見えるが、実際に辿り着いたり触れたりできないものを追い求めさせるマーケティングである。これを人に向かって売りつけると、列記とした詐欺である。
ところが、不思議なもので売られる側が社内ロジックで嵌ってしまうことがある。
蜃気楼マーケティングには定番のネタがいくつかある。
典型的な物として、自動車用途と言うのがある。自動車産業は巨大需要家である。したがって、自動車用途に参入できると、専用ラインが何系列も立ってしまうほどのインパクトがある。なので、技術に自信があって、供給体力があるような会社であれば、是非とも参入したいものである。
ところが、参入は容易でない。まず自動車部品の品質基準を満たすためには、高い品質管理能力が必要である。生産ラインの工程能力、品質部門の管理能力、出荷部門の即応能力、部品の長期供給能力などなど要求される事項は数多く、それぞれの水準も非常に高い。なので、事前に会社として満たさなければならない品質基準が数多く存在し、ビジネスが始まるより前に大きなコストが先に発生する。それでも、ゼイゼイ言いながらも付いて行こうとする訳だが、それは先に見える蜃気楼の絵姿が余りにも立派で素晴らしいからである。かくて、自動車参入を悲願とする先導役や先導部署が社内で蜃気楼を美々しく飾り立てて社内でプロジェクトを売り込む。これが、蜃気楼マーケティングである。
自動車用途だけに限らず、食料品などではコンビニ大手参入などと言うのが舞台になることもある。いずれにしても、成功した暁には会社の売上規模が一気にブレークするような蜃気楼が描かれる。
参入側だってそれなりの規模の会社だから、ちゃんとプロジェクトマネージメントされていて、そんな馬鹿なことは起きまいと思うかも知れない。違うのである。それなりの規模の会社だから起きてしまうのだ。
まず、事前のコストをこなすことのできない中小企業では、こんなことは起きない。なぜなら、そんなキャッシュがないからである。
したがって、蜃気楼に引っ掛かるのは、キャッシュの支払い能力のある会社に限られるのである。
また、特に引っ掛かりやすい体質として、事業部門から独立性の高い中央研究所組織を持っている会社と言うのがある。事業意識の低い人が、技術力基準でテーマ設定できる体質なので、こういう蜃気楼が発生しやすいのである。事業部門からは、プロジェクトの達成確率とか、事前の組織コストとかが問題になって、そんなにドライヴが掛かりにくい。しかし、中央研究所なる場所では、そういうことが問題になりにくいのである。
不思議なことだが、こうした蜃気楼マーケティングは、インキュベーターの時期を通過してしまうと止まりにくくなる。コストが大きくなっていくから進みにくくなると思うのだが、そうではないのである。一定規模まで進めてしまうと、「既に注ぎ込んだコストがもったいなから止められない」と言う奇怪な論理が登場する。また、往々にして、こういう規模の大きいプロジェクトを推進する声の大きな人は出世コースを走っていることが多い。このため、本人は自分の出世のためにも途中で「見込み違いでした」などとは死んでも言わない。そこまで悪意でなくとも、一旦、多くの人間が関わるプロジェクトになってしまうと、辞めた時に社内失業者が大量発生する問題があるため辞められないと言う事情も発生する。
かくて、大企業であるほどに蜃気楼マーケティングに自分たちの組織内で精力を上げるようになり、巨大なコストを、リターンの見通しなく続けていくと言うことになる。
とは言え、所詮は蜃気楼でしかないので、いずれ底が割れる時が来る。
それはプロジェクトの責任者が交代する時である。新任者が来て見て、冷静に実状を聞いてみると、「こんなプロジェクトを継続することなどありえない」と判断するのである。前任者が失脚したり、退任した後であれば特に指摘しやすい。かくて、蜃気楼を追うプロジェクトは、社内の別部門から救世主がやってくる日を待って、今日も何も生まない開発に労力を掛け続けるのである。
貴方の会社にも存在しないだろうか、蜃気楼を売りつけて皆を不幸にしている担当者や部門が‥。
現代のホラーストーリーの一端としてご笑覧いただければ幸いである。
ちなみに画像は蜃気楼怪獣パラゴン‥(^_^;