☆地獄に堕ちた者ディルヴィシュを読む

bqsfgame2015-12-28

ゼラズニイのファンタジー連作。
1965年から1981年に掛けて、断続的に執筆された11編からなる。
それにしてもゼラズニイの書くファンタジーは、どうしてこんなにスタイリッシュなのだろう。
主人公は闇の者ジェレラクにより地獄に堕とされたディルヴィシュ。彼が復讐のため、ジェレラクとの再会を目指す放浪譚だ。
第1作の「ディルファーへの道」は、ディルヴィシュが敗れたポータロイから落ち延びる過程で、五人の騎手を突破していく掌編。プロローグの位置付けになる。
第2作の「セリンデの歌」は、対になったもう一つのプロローグで、こちらは名前を呼ぶのも憚られるジェレラクの姿を垣間見せている。
第3作の「ショアダンの鐘」は、古のディルヴィシュの軍勢を現世に呼び出すことのできる魔法の鐘で、今はジェレラクに仕えるものが守っている。この鐘を鳴らして自分の軍勢を取り戻す物語。
第4作の「メライザの騎士」は、旅路のディルヴィシュが美女の留守居する城に泊めてもらったところ血を吸われ、彼女が吸血鬼で、しかも留守にしていた夫は凶悪な魔物であることが判る。
第5作の「アアチの場」は、旅路のディルヴィシュが追剥に襲われるのだが、追剥の黒幕の正体は意外なものだった。
第6作の「分割された街」は、街の支配権を争う二人が、街を迷宮化する側と、そこから脱出する旅人を支援する側に分かれて争うという奇妙な街の物語。その脱出する旅人に選ばれてしまったディルヴィシュは見事に脱出して見せるのだが。
第7作の「白獣」は正味6ページほどの散文。
第8作の「氷の塔」は、ジェレラクへと通じる要塞の一つ。そこを守る魔法使いの兄妹。この話しは意外なことに、その兄がディルヴィシュを差し置いてジェレラクに挑戦する展開となり、意外にも大善戦してしまう。
第9作の「悪魔と踊り子」は、悪魔に仕える踊り子のオエレが、ディルヴィシュを誘惑する物語。前作で連れとなった魔法使いの妹、リーナと、二人の女の戦いの様相も見せる意外な作品。
第10作の「血の庭」は、旅路で昔通った村が廃墟と化した血の惨事の幻影に捕らわれたディルヴィシュとブラックの物語。
第11作の表題作は、骨肉の争いを繰り広げる兄弟神を信仰する町同士の戦いに巻き込まれる。
紹介すると判るが、旅路で様々な怪異と出会う物語が中心で、かなり怪奇色も強い。ところどころに、古い神が一部の信徒に支えられて力を維持しているかのような描写があり、「ルーンクエスト」を連想させる部分もある。
で、結局、ディルヴィシュ自身がジェレラクと戦うことのないまま第1巻は終わってしまう。第2巻に当る長編「変幻の地のディルヴィシュ」に乞うご期待(笑)。