☆魚舟・獣舟を読む

上田早百合の初期作品集です。

初読。

f:id:bqsfgame:20200516145144j:plain

巻頭の表題作は、上田先生の出世作

陸地の大半が水没した未来社会、そこで海に棲み魚舟と暮らす海の民。海の民との絆を失って野生化し陸に上がる獣舟。

この未来世界は、「華竜の宮」、「深紅の碑文」という大作へと繋がっていきます。

表題作も含め「異形コレクション」での初期の活躍作品が並んでいます。異形テーマなので、ホラー要素の強い作品が並ぶのは止むを得ません。「くさびらの道」は生きた人間に寄生して繁殖し人間を死に追いやるキノコが登場します。今の時期に読むと、非常に鮮烈な印象を与えてくれます。

本書の半分以上を占めている中編「小鳥の墓」は、著者のデビュー作「火星ダークバラード」の前日譚となっています。同作を読んでから時間が経ってしまっているので、その繋がりについて整理できないのですが、本作単独で十分すぎる読み応えがあります。

巻末の解説では、

「人間や社会に対する透徹した視線が、いっそう怜悧になっている」

「お手軽なヒューマニズムをはねつけるシビアな態度」

「わかりやすい敵を設定することなしに、「社会」というものが何重にも網を張りめぐらせて個人をとらえているさまを描きだす容赦ない筆致」

とコメントされていますが、きわめて的確です。けれども、そんな批評文で理解したような気になってはならない重厚な手触りの作品ですので、上田作品に関心のある人なら必読です。