ディックの(当初の)遺作です。
ヴァリス3部作の最後とも言われますが、それほど3作の間に緊密な構造関係は感じませんでした。
世界的な宗教家、ティモシー・アーチャーの義理の娘であるエンジェル・アーチャーが視点人物です。
彼女が、夫であるジェフ・アーチャー、友人であるキルスティン・ルンドボルグ、ティモシー・アーチャーの3人の死を振り返って後悔する独白小説。
山形訳のリーダビリティは快適ですが、上記のようにお話しがお話しなのでワクワクドキドキとは行きません。
アーチャー主教には実在のモデルがいるそうです。エンジェルとキルスティンは例によってディックの彼女たちがモデル。キルスティンは、エンジェルが主教に紹介したのですが愛人関係になってしまいます。で、ジェフは彼女に気があって、主教はエンジェルに気があったのだそうです。なんと面倒くさい狭い人間関係。
アーチャー主教が出てきて、しかも転生するというので、宗教色は強め。代わりにSF色は弱めです。
面白かったかと聞かれると、答えに窮する感じです。つまらなくはないし、軽快に読めるのですが、では近い将来に再読するかと言われるとそれほどでもない。
山形新訳のディックは、暗闇のスキャナーから本作までの4作以外に「死の迷路」が出ています。これもちょっと山形訳で読んでみたいでしょうか。サンリオSF文庫の立上げ直後の飯田役をすすきのの旭屋書店で買って読んで以来です。