〇蜩ノ記を読む

 図書館です。

 最初に本書を読もうかと思ったのは、2011年に本書が直木賞を受賞した時。

 次は本書が映画化された2014年。

 その次は葉室先生が亡くなられた2017年。

 そうした機会を全て逃した末に、先週、図書館の分館に大富豪同心を借りに行ったら隣が葉室先生のコーナーで、大富豪同心を一冊だけにして本書を借りてきました。

 豊後の国の羽根藩の物語。

 10年後の切腹と、それまでの藩史編纂を言い使った戸田秋谷の物語です。しかし、視点人物は同じような境遇で戸田の監視を言い使った檀野庄三郎です。

 秋谷の真っすぐな人柄に触れた檀野は、この人が本当に殿の側室に手を付けたりしたのだろうかと疑問を持ちます。もし冤罪だとすれば助けたいとも。しかし、秋谷はそのような未練は無用と言い続けます。

 村人に慕われている秋谷の所へ不作の心配が持ち込まれたり、強訴の相談が持ち込まれたりしますが、秋谷はできるだけ穏便に事を済ませるように熱心に働きかけます。

 しかし、村が不作で年貢を納められないのに付け込んで田圃を買い漁ろうとする商人が村に入ってきて、村祭りの日に鎖分銅で殺される事件が起こってしまいます。

 これをキッカケに事態は動き出し、秋谷の息子の親友は取り調べで獄死してしまいます。秋谷の息子は武士としてどうしてもしなければならないと思うならそうせよと秋谷に言われて家老の家に乗り込みます。付き添った檀野と息子は囚われてしまい、家老は秋谷が持つ殿の正室の秘密を暴く書類と引き換えになら助けてやろうと持ち掛けます。それに対して秋谷は、ついに立ち上がって家老の家に。

 家老は昔語りに言います。彼の父が亡くなる時にその後の進み方を訪ねた時に父は、

「戸田をそなたの派閥に加えることだ

 あの者は曲がったことができぬ。わしは策をめぐらし、謀をもちいて用人頭まで昇った。しかし、それより上に行くには武士として恥じぬ生き方をせねばならぬと気付いたのだ。戸田のようにな」

「わし亡き後は、戸田を味方にせよ」

 兵衛門が何も答えずに黙っていると、大蔵はいままで見せたことのない物悲し気な表情をして

「そなたと戸田を競わせようとしたわしのやり方は、やはり間違いであったやもしれぬな」

 さらに秋谷が予定通りに切腹する日、家老は自分の派閥の檀野の友人に問われて答えます。

「戸田様の息子が成長いたせば、倒されても良いとお考えですか?」

「たわけ。わしはそれほど甘い道を歩いてはおらぬわ。逆らうものは許さぬ。されど、十年もすれば、必ずわしの前に現れよう。それまで、なんとしても家老の座にしがみついておらねばな」

 本書が直木賞を受賞した時に、某大学の理事長になられている先生が「主人公らが清廉すぎる」とケチをつけたそうなのですが、彼の人の言いそうなことだと思いました。そういう人だから、あの大学は問題が絶えないのじゃないのかなぁ。