オッペンハイマーを見る

 万難を排して劇場へ行って見ました。
 うーむ、クリストファー・ノーランです。
 まず時系列がズタズタです。「ロードマークス」みたいです。
 どうしてそうなるかと言うと、戦後のレッドパージの時にオッペンハイマーが赤の疑いで聴聞会に掛けられた、その聴聞会から話しが始まるからです。
 原爆の父として対日戦争を終わらせた立役者であるオッペンハイマーですが、彼の弟、妻、恋人など近しい人に共産党員経歴を持つ人が複数人います。そんなことは承知の上で国がオッペンハイマーマンハッタン計画のリーダーに抜擢したはずなのですが、計画中にアイソトープの輸出に関して正面衝突したストローズがオッペンハイマーに対する遺恨からオッペンハイマー聴聞会に引き出したのです。
 で、聴聞会でいろいろな人がオッペンハイマーについて証言しますが、ストローズ側に有利な証言をする人が最初に登場します。なので、これはオッペンハイマーと知遇を得た順序ではありませんから、必然的に時系列順には並びません。
 また、もう一つ別の問題があって、最初の方の証言者はオッペンハイマーに敵対する人が多いので、オッペンハイマーの印象が冒頭ほど悪くなっています。徐々に真実が明らかになっていき、オッペンハイマーに対する視聴者の見方も変わっていくように意図されています。
 最終的にオッペンハイマーソ連のスパイではなく愛国者だと認められるのですが、その一方で原爆の威力に戦慄した彼は水爆を始めとするより強力な核兵器開発には反対する立場を取るようになり、そのことを非愛国的だと思う人々とは決裂します。その相手には時のトルーマン大統領も含まれます。
 一方で彼をスパイでないと擁護する側の若手・下院議員としてジョン・F・ケネディの名前が登場します。
 オッペンハイマーは優秀な物理学者ですが、実験は不得意で、理論物理学で世界のトップを走るには数学が弱いなどという否定的な視点も登場します。特に女好きと人付き合いの悪さに関しては、彼が聴聞会に掛けられる大きな一因となったように本作では感じさせます。
 若い頃の愛人である心理学者のジーンがスパッと脱いで濡れ場を演じたことで本作はR指定になってしまっていますが、少なくとも日本では濡れ場目当てで見る人がいるとも思えないので限定解除で良かったのではないでしょうか。
 広島、長崎の惨状を成果としてまとめて報告する陸軍の報告をオッペンハイマーが見ていると思われるシーンはありますが、本物の広島や長崎はまったく映りません。そこはどうだったのかという議論が各所で持ち上がっていますが、確かに物足りない気がします。
 もともと原爆はナチスに落とすつもりだったということや、日本に落とすにあたっての候補都市が12あり、そこから京都を外す経緯だけが説明されたりと、これまでの原爆投下意思決定の世間理解と異なる部分もあり、帰宅して調べなおしてしまいました。
 あとノーラン作品ではいつもですが、判りにくいです。特に登場人物が多いので、小説なら登場人物リストで確認しながら読めるのですが映画だとそれができない。
 もし可能なら、「これから見る方は事前にパンフレットかウィキで登場人物の顔写真リストを作って、出てきたらどこの誰だかすぐに判るくらいまで予習して見に行くのが吉」かと思います。
 アインシュタインのように予習不要な人物もいる一方で、ロスアラモスの大勢のメンバーの中には見分けにくい人物群もいるので。

 そういう意味ではパンフレットを買って復習したので、ここでもう一回見ると理解が深まりそうな気がしています。

 劇中でニールス・ボーアが大きな役割を担うのですが、あまりよく知らなかったので帰宅して調べてしまいました。

ja.wikipedia.org

 とは言え、昭和プロレスファンとしては、「アイアンクロー」も見なくてはなりませんので、これを映画館でもう一回とは行かないでしょうか。
 とは言え、退屈することのない三時間でした。

 お勧めではあります。